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「終わり」をひらくと「未来」が見えてくる




















赤坂アドレスビル解体祭で考えた、インフラの時間
「解体」と聞くと、どんな風景を思い浮かべるでしょうか。
建物が取り壊され、更地になり、やがて新しい建物が建つ。その途中の時間は、たいてい仮囲いの向こう側にあります。
気づいたら、あったはずの建物がなくなっていた。
気づいたら、工事が始まっていた。
気づいたら、新しい建物ができていた。
街を歩いていると、そんな経験は意外と多いものです。
今回訪れたのは、東京都港区赤坂で開催された「赤坂アドレスビル解体祭 AKASAKA ART ACTION」。解体を迎える建物を地域にひらき、アートや展示、対話を通じて、建物が歩んできた時間とこれからの街について考えるイベントです。
インフラ・ミライ・プロジェクトでは、これまで道路や橋、トンネル、防災施設など、私たちの暮らしを支えるインフラに目を向けてきました。今回の解体祭で見えてきたのは、建物がなくなる瞬間ではなく、街が次の時間へ進んでいくための入口でした。
解体前のビルに人が集まる日
通常、解体工事が始まると、建物は防音パネルや仮囲いで囲われます。外から中の様子はほとんど見えず、音や振動、粉じんといったイメージが先に立ちます。
今回、会場を案内してくださった株式会社都市テクノの上原慎平さんは、そうした解体工事の見え方を変えたいと話してくれました。
「建物の節目を地域のみなさんと共有する機会が、これまであまりありませんでした。解体工事が着工したら防音パネルで囲われて、うるさい、粉じんが出る、という印象だけで終わってしまう。その現状を変えたいと思いました」
新しい建物が完成するときには、お披露目があります。
それなら、役目を終える建物にも地域の人が集まり、見送り、次の街を考える時間があってもいいのではないか。そんな考えから始まったのが「解体祭」です。
解体前のビルに人が集まる。その光景そのものが、普段は見えにくい都市の変化を、街にひらく試みのように感じられました。
仮囲いの向こう側にある仕事
会場内には、ビル解体の流れを写真付きで紹介するパネルも展示されていました。
解体時にはがれきが発生し、音や粉じんへの配慮も必要です。そのため、しっかりと養生し、安全を確保したうえで作業を進めていきます。建物を上から少しずつ壊し、発生したがれきを下ろし、また壊し、また下ろす。その工程を繰り返していくそうです。
特に都心部のように建物が密集した場所では、周囲への影響を抑えながら安全に進めるための技術と管理が求められます。今回の案件では毎日30〜40人ほどが関わり、工期は約9か月にわたるとのことでした。
解体とはただ壊す仕事ではありません。
周囲の安全を守り、地域に配慮しながら、次の街づくりへつなぐ仕事でもあります。
道路や橋、トンネルなどのインフラメンテナンスも同じです。普段は完成した姿だけが目に入りますが、その裏側では点検や補修、更新に関わる多くの人が日々支えています。
壊れてから注目するのではなく、壊れる前に守り、必要なタイミングで手を入れる。その積み重ねが、私たちの当たり前の暮らしを支えています。
建物にも時間が流れている
建物は完成した瞬間だけで語れるものではありません。
そこには働いていた人がいて、通っていた人がいて、日々の営みがありました。
「みなさん、出来上がったものに目が行くと思います。でもその前にこういうビルがあって、壊す人がいて、街が入れ替わっていく。その最初のステップが解体祭なんです。その記憶を忘れずにいてほしい」(上原さん)
私たちは、新しい建物が完成した姿を見ることには慣れています。けれど、その一つ前に何があったのか、どのように役割を終えていくのかを考える機会は多くありません。
今回の解体祭は、普段あまり意識することのない「役目を終え、次へつなぐ時間」を私たちの前にひらいていました。
アートがひらく、もう一つの見方
赤坂アドレスビルでは、解体前の暫定利用期間を活用したアートイベント「ソノ アイダ #赤坂」も開催されていました。
“何もない期間”にも見える解体前の時間を、アートによってもう一度ひらく取り組みです。ビルの中には、アーティストによる作品や展示が各所に広がっていました。
その一つが、山上渡さんによる「Theater Theater」。
解体前のオフィスビルにこれまで制作してきた作品や舞台美術を持ち込み、空間そのものをひとつの“劇場”として再構築した作品です。
山上さんは、インドネシアで道路整備のために剥がされたアスファルトが街中に積まれている光景を見て、「まるで生き物が新陳代謝しているようだ」と感じたそうです。そのアスファルトを素材にした作品も、今回の展示に持ち込まれていました。
道路の一部だったアスファルトが、アート作品として別の表情を見せる。
無機質に見えるものも、見方を変えると生き生きとしてくる。
その視点はインフラを見る目にも重なります。
道路も、建物も、工事現場も、普段はただの風景の一部に見えるかもしれません。けれど、そこに流れてきた時間や、関わってきた人たちの仕事を想像すると、少し違って見えてきます。
「次はどんな建物ができるんだろう」と思えるように
解体を迎える建物を地域の人たちにひらく。その取り組みに込めた思いについて、赤坂アドレスビルを所有する日鉄興和不動産の浜島さんにもお話を伺いました。
「解体や工事は、突然始まって突然終わってしまうように感じられることがあります。でも、こういう機会があれば “解体祭で行ったところだな” と思ってもらえる。見え方が変わると思うんです」
一度その場所に足を運び、建物の中を歩き、そこで誰かの話を聞く。
それだけで工事現場の見え方は少し変わります。
「何か工事をしている場所」ではなく「前に訪れたことのある場所」になる。
「壊されている場所」ではなく「次の街へ向かっている場所」として見えてくる。
浜島さんは、来場者に「次はどんな建物が建つんだろう、楽しみだな」と思ってもらえたら、と話していました。
普段見ている景色が少し違って見えるようになること。
解体祭は、そんな小さな視点の変化を生む場でもありました。
つくるために壊している
壊すという言葉には、どこか寂しさがあります。
都市の中では、何もない土地から新しい建物をつくることの方が少なくなっています。多くの場合そこには既存の建物があり、それを解体し、次の建物へつないでいく必要があります。
上原さんは「取り壊す、終わるということは必ずしも悪いことではありません。次に生まれ変わるためのはじまりなんです」と話してくれました。
それは建物だけの話ではありません。
道路や橋、トンネル、公共施設など私たちの暮らしを支えるインフラも、点検され、補修され、必要なタイミングで更新されながら使い続けられています。
私たちは街を完成した姿で見ています。
でもその裏側には、つくる人、守る人、直す人、壊す人、そして次へつなぐ人がいます。
次に工事現場の前を通ったとき、仮囲いの向こう側を少しだけ想像してみる。
そこではただ何かが壊されているのではなく、次へつなぐための仕事が行われているのかもしれません。
「解体祭」という少し意外な入口から見えてきたのは、建物がなくなる瞬間ではなく、街が次の時間へ進んでいく姿でした。
株式会社都市テクノ
日鉄興和不動産株式会社
ソノ アイダ 関係者の皆様

