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写真家・山崎エリナさんが見つめた現場と未来

事務局M.O

インフラの“尊さ”に光をあてる

「インフラってなんだか難しそう」そんなふうに思う方も多いかもしれません。
でも、たとえば“フラ〜っと”見上げた橋の裏側に、ふと「誰かが守っているんだな」と感じる瞬間があったら。
そんな何気ない気づきが、老朽化や維持管理の問題を“自分ごと”として考えるきっかけになるかもしれません。

今回お話を伺ったのは、写真家の山崎エリナさん。
世界50か国を巡り、人々の暮らしや街の表情を切り取ってきた彼女が今、レンズを向けているのは日本各地のインフラメンテナンスの現場です。

暮らしを支えるインフラは高度経済成長期に一斉に整備され、今、その多くが老朽化の時期を迎えています。この大きな課題に向き合うためには、社会全体でその価値に気づき、担い手を支えていく視点が欠かせません。
エリナさんの写真は、その入口に立つ“まなざし”を私たちに届けてくれます。

世界を旅した写真家がたどり着いた、
インフラメンテナンスの現場

山崎エリナさんの写真家としての原点は、フランス・パリでの留学時代にあります。3年間の滞在を経て、50か国以上を巡りながら暮らしの風景を見つめてきました。

「夕食のにおいがするような路地裏や、洗濯物が揺れる風景。
そういう生活感のある空間を切り取ってきました」

ときにはインフラが整備されていない地域にも足を運び、道なき道や何十年も使われてきた小さな橋に目を奪われたと言います。

©山崎エリナ

帰国後は日本各地を訪ね、熊本・球磨村の撮影を経て2006年に「ただいま」「おかえり」を出版。物語のある風景を紡ぐようになります。そんな中で出会ったのが、インフラメンテナンスの世界でした。

©山崎エリナ

“除草”から始まった、インフラメンテナンスとの出会い

最初に撮影したのは、道路脇の除草作業でした。
ネットを張り、草を刈り、整えていく。
その一つひとつの動作が丁寧で美しかったと振り返ります。

「すごく繊細に、そしてリズムよく作業されていて感動したんです」

この出会いをきっかけに、全国のインフラメンテナンスの現場を訪れ、トンネル、橋梁、高速道路の点検・補修現場に足を運ぶようになりました。

夜の現場に浮かぶ一番星——美しさは、日常の中にある

インフラメンテナンスの現場は、決して派手ではありません。
でも、エリナさんはその日常の中に“美しさ”を見つけていました。

「深夜0時、氷点下の高速道路の点検現場で、対岸からクレーンが動き出す瞬間が見えたんです。真っ暗な空にクレーンのライトがひとつ、ピカッと光った。
その光が、一番星みたいに感じられたんです」

©山崎エリナ

写真に込めた想い

「撮影を通して伝えたいのは、インフラメンテナンスは“誰かがやってくれていること”ではなく“自分の暮らしとつながっていること”」

エリナさんの言葉には、何度も現場に足を運んできたからこその想いがこもります。仕上げた舗装に泥がつかないよう丁寧にビニールを敷く。ボルト一本一本に保護処理を施す。
そんな細やかな配慮が、現場には溢れていました。

「工具がきちんと手入れされていたり、腰に巻かれた道具が美しく整っていたり。
現場の方々のかっこよさは、そういうところにもあると思います」

夕暮れ時の舗装作業、静かに鼻筋をつたう汗、数年のあいだに変化した現場責任者の眼差し——。エリナさんの写真には「人の技術と想い」が写し出されています。

インフラ・ミライ・プロジェクトへ寄せて

「実は、インフラも工事現場も、それまで一度も撮ったことがなかったんです」と語るエリナさん。きっかけの一つには、阪神・淡路大震災の経験があったと言います。

「当たり前にあった道や橋が、一瞬でなくなった。
あのときの衝撃が、ずっと心のどこかに残っていたのだと思います」

初めて訪れた除草作業の現場で感じたのは、想像以上に繊細で丁寧な仕事ぶりへの驚き。そこから現場に足を運ぶたびに、暮らしの裏側を支えている人々の姿に出会っていきました。

“知らない世界”だったインフラが、やがて“自分の言葉で伝えたいもの”へと変わっていったのです。エリナさんの写真には、誰かがこの社会を守っている——そんな現実が、飾らないかたちで映し出されています。

写真集『インフラメンテナンス - 日本列島365日、道路はこうして守られている』の発表後は、建設業界に限らず多くの人から「こういう伝え方があったのか」と反響が寄せられました。インフラを支える人の姿を通して、その大切さを伝える視点に、多くの共感が集まったのです。

エリナさんが共感してくださった「インフラ・ミライ・プロジェクト」は、災害に強く、安心して暮らせる社会を支えるインフラの重要性を、未来に向けて発信していく取り組みです。
その想いに共感し、「写真を通じて、暮らしの側からインフラの大切さを伝えたい」と応えてくださいました。

「身近なところからでも、インフラに関心を持つきっかけになれば——」

その言葉には、現場と向き合ってきた写真家として、そしてこの社会の一員としての実感が込められています。

おわりに——“伝える”ことは、未来をつなぐこと

エリナさんの写真に写っていた作業員の息子さんが「父と同じ仕事がしたい」と語ったように、誰かの心に残った一枚が次の行動のきっかけになるかもしれません。

写真や言葉が誰かの心を動かし、想いが次の世代へと手渡される。
そんな瞬間に、“伝える”ことの力を実感します。

見えないところで、暮らしを守ってくれている人たちがいる。
そのことに気づくきっかけは、きっと日々のどこかにあるはずです。

三菱ケミカルインフラテックが運営する「インフラ・ミライ・プロジェクト」では、12月6日を「インフラ・ミライデー」として記念日に登録しました。
インフラの価値や現場の努力を改めて見つめる日として、「考えるきっかけ」になってほしいと願っています。

インフラの未来は、私たち一人ひとりの“まなざし”の中にあります。
その視線の先に、あたたかな敬意と関心が広がっていくように。

インフラを未来につなぐ力は、私たち一人ひとりの気づきと関心から始まります。

INFORMATION

山崎エリナ(やまさき えりな)

写真家 兵庫県神戸市出身。
世界50か国を巡り撮影、NHK深海番組にも出演。
インフラ現場を撮影した写真集で国交省などから多数受賞。
インフラに携わる人たちへのエールソング

🎵『この空の下で』▶ YouTubeで聴く

🔗公式WEBサイト▶https://yamasakielina.com/

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